あなたを通して見る太陽『宇宙よりも遠い場所』4話まで感想
長いトンネルの出口を探していた
微かな光の匂いがしてる方へ
エンディングテーマ『ここから、ここから』の冒頭部分です。
何かしたい、でもすることがない。自分探しの旅にでも出ようか、でも結局重い腰が上がらない。若かりし頃そうやって悩んでいた人は多いんじゃないかと思いますが、主人公の少女キマリも、そんな若い悩みを抱く高校生の一人です。彼女は当初、高校生の間に何かしたいのになかなか行動に移せない、たった一歩が踏み出せないことに悩んでいるように見えますが、彼女の事情はちょっと進行してメタ的になっていて、その悩みの本質はそんな自分で作った壁が見えてしまっている、むしろそっちの方になってたのかなと思います。ギリギリになるといつも一歩が踏み出せなくなっていたキマリ。何かをしようとはする、でも結局しない。それを繰り返している内に、だんだん一番の障害が自分の中にあることに気がついてくる。1話で印象的だったこのカットもそんな彼女の抱いていたもどかしさ、世界に対して感じていた窮屈さを表している彼女目線なのかなと思います。
それはもしかすると飄々とした親友のめぐみと自分を無意識に比較している面もあったのかもしれません。二人に特段の違いはない。あるのはただズル休みをしたことがあるかないかというだけ。しかし自分が動けば世界は変えられる、それを知らないという差は、狭い世界で生きる高校生にとってはあまりにも大きい。壊そうと思えば壊せる壁も、壊さないとだんだん本当に壊せないものになっていく。自覚的になるということはそういうことで、だから日々に焦りのようなものすら感じて「私は嫌い…私のそういうところ、大ッキライ」と言う。
そんな彼女は南極を目指す少女報瀬に光を見て、ついに一歩を踏み出します。1話後半のこのシーン、4話とは対照的に太陽は小屋に隠れて映らない。二人は太陽を直接見ていない。それでも、報瀬が見ていた「トンネルの出口から射す光」、それに照らされた報瀬を通して、キマリは微かな、しかし確かな光を見つける。トンネルの中で彷徨っていた二人の少女は出会い、同じ微かな光の方へ歩き始める、そんなシーンなのかなと思います。
ここで報瀬が太陽を背にして映るのではなく、あくまで照らされる側の存在であることは重要なのでしょう。「友達も作らず、放課後ずっとバイトしてお金ためて」1年間を過ごしていた彼女は彼女自身輝く存在というよりは、やはり光の方に向かう者というのがしっくり来ます。そんな彼女だからこそ、太陽と逆の空を見ながら「言いたい人には言わせて置けば良い。今に見てろって熱くなれるから。そっちの方が、ずっと良い」と言う。そうやって影を見せる。
報瀬はひょっとすると微かな光の方へずっと「下を向いて」歩いていて、いつの間にか、その初めに描いた輝きを忘れていたのかもしれません。4話で朝日を見た彼女の表情は、そんな彼女の母親を亡くしてからの人生と物語を想起させます。
しかし今の彼女にはキマリや、2人の友達・仲間がいる。1話でキマリが報瀬を通して光を見つけたように、報瀬もキマリを通して光を見る。「どこかじゃない、南極だ。って」いつの間にかそんなことを言うようになったキマリに手を引かれて、今、彼女は長いトンネルの出口を出ようとしているのかもしれません。
そして蛇足かもしれませんが、1話のシーンでキマリの背後から光が射していたのは、今となっては4話に繋がる伏線であるようにも思えます。
1話の完成度の高さに衝撃を受けてから既に自分の中ではこういう作品があるからアニメを見るのはやめられないという存在になりつつありますが、5話以降の展開がどうなるか、とても待ち遠しいです。